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プロジェクト同盟 [2006年APMFフィジー大会]

[AA研究2007年第1号に記載]「プロジェクト同盟」は道路・橋など主として公共事業の建設プロジェクトの関係者が同盟を組むもので、入札や契約の段階から始まり、従来のプロジェクト遂行の方法をメディエーションの概念を取り入れ改良したものという。すなわち、ある時点での契約内容を絶対として硬直的にそれを遂行することで紛争の発生に対処できず、結果的に契約の当事者たちに多大の損害が生じることを防ぐために、プロジェクトの柔軟な遂行を契約に含める手法である。

ビル建設プロジェクトとしては、世界で初めてこの方法を採用したオーストラリア国立博物館(National Museum of Australia)建設は、次のようなものであった。

オーストラリア初の国立博物館建設は、20世紀初頭以来の念願になっていたが、紆余曲折あり1998年にやっと工事が始められたが、予定地にあった病院(Royal Canberra Hospital)の建物を撤去する爆破作業中、一人の子供が巻き込まれ死亡する事故が起きた。その事故を発端に数々の問題が露呈した。責任は誰にあるのか、予算外の出費をどうするのか、誰が払うのか、といった問題である。この事業に対する人々のイメージも著しく悪くなった。今さら引き返すこともできず、行き先の見えない最悪の状態に陥った。そこで、「プロジェクト同盟」が採用されることになった。その結果、近隣住民への対応、業者間の調整がスムースに進み、短期間で予算の制約を受けつつも目標の2001年開館に漕ぎつけることができた。

メディエーションにも共通することだが、プロジェクト同盟の考え方は、勝者と敗者が出るシステムは、紛争を引き起こすと考える。博物館建設は当初は「勝者-敗者」の従来型で始まったが「敗者-敗者」の状態に陥ったことで「プロジェクト同盟」が採用され「勝者-勝者」の結果を得ることができた。

従来の入札では金額のみの競争となるが、「プロジェクト同盟」では応募企業はその内容も吟味し、不測の問題発生時の対応を含め具体的にどのような特色を持ってどのように貢献できるのかを入札時に明示しなくてはならない。どの企業が採用されるかはそれらの総合点で決まる。従来のように、より価格の安いほうが札を得るのではない。プロジェクトのゴールはさらに高いところに求められ、札を得た企業は当然のことながらその点で努力しなくていけない。 また契約も従来のように最初に全てを決めしまうのではなく、臨機応変に対応できるように規定される。同盟の参加者が契約内容に添えなかったとしても、それが意図的なものでなければ法律上の責任は問わない。利害にかかわる関係者(建設業者などの企業や発注者である公共組織など)全員が一丸となり取り組み、プロジェクトのリスクと責任は全員が負う。過失による損失も最終的に生じた余剰金も事前に取り決めた歩合にそって全員で分け合う。最初の段階から全員が同じ席に着いて話し合い、全員の合意を得ながら具体的な契約事項を決めていく。どんな問題も同盟全員の問題として扱う。このように、全員が勝者もしくは、全員が敗者、というシステムとして設計されている。(*

以上のように、プロジェクトの契約じたいの中に、プロジェクト遂行の中で初めてわかってくるような諸問題に対応できるように、プロジェクトの柔軟な遂行を規定し、あらゆる事態に対応できるような契約当事者たちの人間関係、さらにはプロジェクトにかかわる近隣住民なども含めた人間関係をつくっていく、というのが、この手法の要点となっている。オーストラリアでは他にも数多くの公共事業で「プロジェクト同盟」が採用され、その成果が証明されているという。

(*)報告資料によれば、より具体的には、次のようになる。「・何か決定するさいはプロジェクトにとって最適なものでなくてはいけない。・全員にとって最善の商業的利益と成果をもたらすにはどうしたら良いかを考える。・より良い成果を得るには弊害となるものを除き全く新しく考えなおす姿勢が必用。・参加企業、組織のトップは無条件で、実際に目に見える形で同盟を支持する。・「主人と召使」の関係からみんな同等の関係へ。全員に平等な発言権。・互いの「非を咎めない」和やかな雰囲気作り。 他者を咎めて足を引っ張るのではなく、むしろ支えてその貢献を称える。・同盟内の全ての資料公開、技術や知識の交換が自由に行なえること。・ 率直で誠実な対話が自由にでき、密かな画策があってはならない。・ 会議、取引、決済、とにかくプロジェクトにかかわることは全て公開とする。・問題が発生した時はそれが悪意を持った意図的なものでなければ裁判沙汰にせず同盟内で迅速に対処する。・一社の工事に不具合があってもそれは同盟全ての責任として扱う。」
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